湯の華(温泉析出物) | 日本温泉協会

湯の華(温泉析出物)

湯の華(温泉析出物)

2022年8月10日 公開

湯の華とは

 湯の華とは、温泉水中に生じた沈殿物などのことです。もともと地中深くでは温泉水の中に溶け込んでいた成分が、地上にでてきて温度の低下や、圧力の低減、空気との接触による酸化、pHの変化などによって温泉水に溶け込むことができなくなり、沈殿・析出・固形化したものです。

 温泉に入っていると、湯の中をふわふわと舞うものを見かけたことがあるでしょうか。糸状のものや薄い絹状のものなど形状は様々、色も白や黒、灰色など温泉成分によって様々です。これらも「湯の華」(または湯の花)と呼ばれています。細かい粒子状のものが無数に舞っていたり、浴槽の底に沈殿して温泉水が白濁や赤褐色など着色しているように見えることもあります。温泉によっては湯の表面が膜状に覆われることもあります。これらも湯の華(温泉析出物)です。

 温泉施設によっては、温泉の注ぎ口や浴槽の縁、浴槽からあふれ出た流れにそって床面に波状や層状に析出物が付着していることもあります。

 また源泉で採取した「湯の華」を乾燥させ販売していることもあります。家庭のお風呂に入れると温泉気分を味わえるお土産品として人気があるようです。

 一方で、この沈殿・析出・固形化した物質は「温泉スケール」とも呼ばれ、温泉を配湯するパイプや貯湯タンクなどで固着し根詰まりを起こす原因となります。定期的に温泉パイプを交換する手間と費用がかかることから温泉管理者を悩ませています。

温泉がつくりだした造形美

温泉がつくりだした造形美

温泉がつくりだした造形美

温泉がつくりだした造形美

析出物で覆われた貯湯タンク

析出物で覆われた貯湯タンク

 また、温泉研究者の間では、湯の華を「温泉華(おんせんか)」、「温泉沈殿物」、「温泉析出物」という呼び方をすることがあります。主に自然科学の分野で使用される用語で、成分によって以下のように分類されています。

温泉華の種類

 湯の華は、温泉水に含まれる成分によって生成が異なり、硫黄華、石灰華、珪華、鉄華、硫酸塩華などのように分類することができます。

  1. 硫黄華

 硫黄が主成分の温泉華です。温泉水中での硫黄成分は硫酸イオン、硫化水素イオン、チオ硫酸イオン、硫化水素、二酸化硫黄など多様な形で含まれています。乳白色や淡黄色、黄色が一般的で結晶状や軟泥状のものもあります。
 硫黄泉や酸性硫黄泉などの泉質で生じやすく山形県蔵王温泉、群馬県草津温泉、神奈川県箱根大涌谷など火山性の温泉でみられます。蔵王温泉では軟泥状の湯の華が採取され、ダンゴのように丸めたものをお土産として販売しています。また草津温泉では湯畑の樋に沈殿・付着した「湯の華」を採取乾燥させてお土産として販売しています。
 また、秋田県玉川温泉などの噴気地帯で見られる硫黄華は高温で結晶化したもので鮮やかな黄色をしています。

蔵王温泉の湯の花

草津温泉の湯畑

草津温泉の湯畑

玉川温泉の硫黄華

玉川温泉の硫黄華

  1. 石灰華

 炭酸カルシウムが主成分で、地中では圧力がかかり溶けていた成分が、地表に湧出して圧力が下がり炭酸ガスが抜けることで析出するといわれています。含まれる成分によって白色や黄褐色、赤褐色など様々な色の析出物が生成されます。
 炭酸水素塩泉をはじめ、塩化物泉や単純温泉など幅広い泉質で生じ、岐阜県奥飛騨温泉郷、和歌山県白浜温泉などでみられます。後述する北海道二股ラジウム温泉の石灰華ドーム、岩手県夏油温泉の石灰華(天狗の岩)、長野県湯俣温泉の噴湯丘、石川県白山岩間温泉の噴泉塔群なども石灰華が堆積したもので天然記念物に指定されるほど大変貴重なものとなっています。他にも大分県長湯温泉では球状に析出することから「温泉マリモ」と称されています。下の写真では断面から成長を示す同心円模様が確認できます。

二股ラジウム温泉の石灰華ドーム

二股ラジウム温泉の石灰華ドーム

夏油石灰華石灰華

夏油温泉の石灰華(天狗の岩)

長湯温泉の温泉マリモ

長湯温泉の温泉マリモ

  1. 珪華

 珪酸(シリカ)が主成分で、シリカを含んだ高温の温泉水が冷える過程で生成されるといわれています。一般的には白色や灰白色の析出物が生じるようです。
 塩化物泉や硫黄泉などの泉質で特に高温の温泉で生じるようですが、日本では珍しく、秋田県秋ノ宮温泉郷の鮞状珪石(ブリコ石)、長野県中房温泉の膠状珪酸および珪華が天然記念物に指定されています。また大分県別府温泉郷の白池地獄などでもみられるようです。鮞状珪石とは魚卵のような形状をした珪華で球体の直径が1~3㎜程度でハタハタという魚の卵(ブリコ)に似ていることからブリコ石とも呼ばれています。

秋の宮温泉郷で産出された鮞状珪石(ブリコ石)

  1. 鉄華

 鉄が主成分で、主に2価の鉄を含む温泉水が地表に湧出して空気中の酸素により酸化して沈殿、析出したものといわれています。黄褐色や赤褐色のものが一般的です。
 また硫化鉄が主成分となる析出物もあり、硫化水素と鉄を含む温泉の析出物で黒色になるようです。このほか温泉水中のマンガンやカルシウム、シリカなどとともに沈殿・析出する場合もあるようです。
 含鉄泉や炭酸鉄泉、鉄分を含んだ硫酸塩泉などの泉質で生じやすく兵庫県有馬温泉などでみられます。

有馬温泉の源泉で析出した鉄華(スケール)

有馬温泉の源泉で析出した鉄華(スケール)

  1. 硫酸塩華

 硫酸カルシウム(石膏)、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸アルミニウム(明礬)などが主成分となって沈殿・析出したものです。
 大分県別府八湯のひとつ明礬温泉では、アルミニウムイオンを含む噴気地帯に「湯の花小屋」という小屋を建て伝統的な手法で湯の花を採取している光景が見られ観光名所になっています。
 また秋田県玉川温泉の「大噴」源泉で産出される「北投石」は、温泉水に含まれる硫酸バリウムと硫酸鉛が主成分の固溶体で大変貴重な硫酸塩華で、国の特別天然記念物に指定されています。なお硫酸バリウムだけであれば重晶石とういう鉱石や、胃のX線検査で用いられる粉末状のものが知られています。

浴槽に固着した硫酸カルシウムの結晶

浴槽に固着した硫酸カルシウムの結晶

別府明礬温泉の湯の花小屋

別府明礬温泉の湯の花小屋

玉川温泉の源泉「大噴」

玉川温泉の源泉「大噴」

  1. その他

 その他にマンガンを主成分とする沈殿物があり北海道ニセコ温泉郷の新見温泉や長崎県島原温泉などでみられるそうです。また温泉水中に棲息する微生物が関与して生成される沈殿物もあるようですが割愛いたします。

湯の華(温泉析出物)がつくりだした特殊な自然景観

 温泉が湧出している源泉地帯では、温泉に含まれていた成分が析出・堆積し、長い年月をかけて特異な堆積物を形成することがあります。その形状によって、タワー状のものを「噴泉塔」、ドーム状のものを「噴湯丘」などと呼んでいます。北海道二股ラジウム温泉の石灰華ドーム、岩手県夏油温泉の石灰華、長野県白骨温泉の石灰華噴湯丘、長野県湯俣温泉の噴湯丘、石川県岩間温泉の噴泉塔群など、これらは大変貴重な自然現象であり、天然記念物に指定されているものもあります。

湯俣温泉の噴湯丘

湯俣温泉の噴湯丘

岩間温泉の噴泉塔群

岩間温泉の噴泉塔群

奥々八九郎温泉

奥々八九郎温泉

おわりに

 湯の華、温泉華、温泉スケールなどいろいろな呼び方がありますが、どれも同じ事象と捉えることができます。湯の華はその温泉の個性です。「見た目が良くない」という声を聞くこともありますが、「地球から誕生した温泉の副産物」ということをご理解いただき、温泉を楽しむ幅が広がることを願っております。

参考

・温泉の基礎講座「湯の華と温泉の析出物」について(日本温泉協会「温泉」第73巻3月号/2005年3月発行)
・「温泉図鑑 自然編」(日本温泉協会/2009年2月発行)
・「温泉展~湯の華からのメッセージ~」平成14年度春季特別展図録(岐阜県博物館/2002年4月発行)

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